教育ICTデザイナー  田中康平のブログ

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情報活用能力の育成と課題との間に横たわるもの

「情報活用能力の育成と課題との間に横たわるもの」

日本では、社会に出て毎日英語を使い仕事をする人よりも、毎日PCやインターネットや組織内LANや共有サーバを利用する人の方が圧倒的に多いでしょう。

周囲を見渡すと、

・キーボードで満足にタイピングできない。

・インターネット上の情報をコピペはできても「引用(著作権法32条)」する術を知らない。

・ファイルの拡張子を知らない。

SNSの延長の様な文面で、友達ではない相手にメールを送信する。

そういう若者が増えてないでしょうか?(若者に限ったことでもないかもしれませんが)

大学の先生と話をすると、今の「若者あるある」の様に、こうした話が数多く出てきます。

企業でも似た様な話を聞きます。

 

「情報活用能力」という言葉をご存知でしょうか。

文部科学省では

3つの観点、8つの要素に整理されています。

「情報活用の実践力」

・必要な情報の主体的な収集/判断/表現/処理/創造

・受け手の状況などを踏まえた発信/伝達

・課題や目的に応じた情報手段の適切な活用

「情報の科学的な理解」

・自らの情報活用を評価/改善するための理論や方法の理解

・情報手段の特性の理解

「情報社会に参画する態度」

・情報や情報技術の役割や影響の理解

・情報モラルの必要性/情報に対する責任

・望ましい情報社会の創造への参画

 

文部科学省「21世紀を生き抜く児童生徒の情報活用能力育成のために」より

http://jouhouka.mext.go.jp/school/pdf/shidoujirei.pdf

H23年度に文部科学省より公表された「教育の情報化ビジョン」には、

情報活用能力を育むことは、必要な情報を主体的 に収集・判断・処理・編集・創造・表現し、発信・ 伝達できる能力等を育むことです。また、基礎的・ 基本的な知識・技能の確実な定着とともに、知識・ 技能を活用して行う言語活動の基盤となるもので あり、「生きる力」に資するものです。
 と書かれています。
H26年度に初めて「情報活用能力調査」が実施されました
(対象:国公私立の小学校第5学年児童 116校 3,343人、中学校第2学年生徒 104校3,338人)
その結果が公表され、10に分類された課題とそれに対応する授業実践の事例が紹介されています。
課題の1例に「キーボードでの文字入力」というものがあります。
5分間で全角72文字の文を入力するという調査の結果
平均入力文字数別の学校割合は,小学校は 20 字以上 30 字未満が最大で 45.1%,中学校は 40 字以上 50 字未満が最大で 48.1%である。
1分間当たりの文字入力数 小:平均5.9文字 中:平均17.4文字
 別の課題として「複数のデータからの情報収集」についても指摘されています。
ウェブページの階層化されたリンク先をたどって,特定の情報を見つけ出し関連付けることができた小学生は約1割であった。(小学生のみに出題)
 ※文部科学省情報活用能力調査結果 第4章」より
今の高校生や大学生の情報活用能力は、もっと高いものであって欲しいと願います。
さて、
学校にはPC室が整備され、最近では電子黒板やタブレット型端末の整備も進んでいます。なのに、なぜ情報活用能力の育成に課題が見られるのでしょうか。
 
・学校現場にしか存在しない特別なソフトウェアやシステム

・子供を守ろうとするあまり(もしくは、教育活動への理解が低いメーカーによる製品等により)閲覧したいサイトすらブロックする有害サイトフィルタリング

・子供のカスタマイズを排除するユーザ権限の付与や強制的なPC環境復元の仕組

・子供の活動を制御する機能(キーボードの一斉ロックや作業停止など)

・キーボードでのタイピングの機会すら奪う恐れのある、タブレット端末に切り替えられるPC室整備

私が見てきた環境を整理すると、こうした点が上げられます。

情報活用能力を育むための豊かな活動を実現できるとは思えない環境が整備されているとしたらどうでしょうか。

課題の要因は、授業実践やその機会だけにあるとは到底思えません。

学校では、一般社会と隔絶されたかの様な環境でPCを操作し、情報を活用することに制限をかけられてしまっている児童生徒が大勢います。

そういう子供たちは、学校を離れるとスマホで全てを済ませてしまうことも考えられます。

情報活用能力は、社会に出たら当たり前に求められる能力でしょう。

社会でだけではなく、人生そのものを豊かにしてくれるチカラの一つです。

その育成について、観点も要素も整理されています。

なのに、育成する環境の現状はどうなのか?

製品を開発し提案・販売するメーカーや、整備を提案する企業は、これまでの環境を振り返り、そこで育まれたものが何であったかを問い直さなければならないのではないでしょうか。

手段が目的化しがちな教育現場の情報化やICT環境の整備。

今一度、目的は何であるのかを問うていきたいと思います。

その目的が、関連する企業の為だけであってはならないのです。