1人1台の学習用端末整備とは、誰のための事業なのか。
佐賀県の県立高校での学習用パソコン。
H29年度の新入生が購入するための端末の調達・設定・引き渡し等の入札が公示されている。
佐賀県のICT利活用教育推進事業において中心的な整備となっている県立高校生の学習者用パソコン。
数校での実証を経て、H26年より全県立高校で展開されて3年目。
その間、多くの課題が指摘され、挙げ句の果てには不正アクセス事件が発生し、逮捕者も出た。
それらを踏まえて、今後の整備内容等が改善されるのかと言えば、そうではない。
仕様書を読んでいただければわかる通り、従来の端末と大差はなく、
不正アクセスで最も多くの個人情報が流出した校内サーバを今後も使用し、そこに接続する前提となっている。
H25年度から実施された当該事業の改善検討委員会の委員として課題等を指摘してきたが、それは単に
「委員の意見を聞いた」
という体裁を取り繕うためのものだったのだろう。
指摘事項や提言は、残念ながら何ら盛り込まれていないと言ってよい。
県立高校へ入学する際に、全ての新入学生が5万円を負担し購入する。
購入するための資金を一括で支払うことが困難な場合は、育英会より購入資金の貸付を受け、毎月返済する方法も用意されている。
(借用人は生徒本人。H26年度は、2割程度が育英会からの貸付を利用している。)
定時制高校への入学者も購入が必要であり、費用負担の面からも改善を求める声が寄せられていた。
私が出会う高校生の保護者の方々は、口々に
「使っていない」
「不要」
「電子辞書で十分」
「検索したり、英和辞書程度の活用ならば、スマホで十分ではないか」
と言う。
中学3年生の保護者の方々からは
「来年度も購入しなければならないのか」
と否定的な口調で尋ねられる。
実際に高校へ通う生徒からも
「起動が遅い」「重たい」「何回かしか持って行っていない」
と聞く。
授業を見に行っても、全体的によく活用されているとは言えない。
(これまで私が見てきた学校において、そうであった。)
つい最近でも、日常的に活用されていないことを想像させる授業を幾つも目にした。
学習用パソコンを起動しながら、その前に電子辞書を出して活用している場面なども目にしてきた。
現場の教員からは
「来年度も購入となったら、保護者説明会で相当のご意見や批判が寄せられるのではないかと心配している」
という声も聞かれる。
高校生が一人一台の情報端末を日々活用すること自体には賛同する。
しかし、それは
「活用しやすい端末や環境」
「端末を活用した学習機会の拡大」
「授業改善」
これらが相まってこそ有効になるのだと思う。
端末にしても、指定された端末ではなく、生徒が選択できれば良いと思う。
これまで見聞きした現状から考えると、改善すべき部分が多々残っている。
出てきた課題を真摯に受け止め、改善し、その結果を検証し、さらなる改善策を講じるべきだが、残念ながら教育委員会の担当部署からはその様な姿勢は見られない。
一人1台の情報端末の整備とは「利用者本人のための事業」である。
整備側の出世の道具でも、提供する企業側の利益のためではない。
公共事業として地元経済の活性化や雇用創出が目的というのであれば、本末転倒。
利用者本人のより豊かな学習のために、利用者本人が主体的に活用するための情報端末であるはずだ。
そういう「当たり前のこと」が実現されるのは、いつになるのか。
教育とICTの業界では
「2020年に一人1台の学習者用端末の導入を!」
の掛け声が聞かれる。
導入を主導する関係者や企業のためではなく、活用する児童生徒の為であって欲しい。
これまでの教育ICT環境整備において、
「導入しても活用されない」
「費用対効果が見えないので予算が削減された」
を繰り返してきたのは何故なのか?
児童生徒が「活用したい!」
教員が「活用したい!」
という声が聞こえて来る「あたりまえの状況」が生み出されないのは、何故なのか。
私を含め、教育ICT環境整備の関係者は、佐賀県の事例や過去の事例をしっかりと振り返り、学ばなければならない。
本当に「一人1台の学習用端末整備が必要だ」と考えているのなら、考え方や方法を変えるべき。
そうしなければ、ユーザーから三行半を突きつけられるかもしれない。
特に、日々スマートフォンに慣れ親しんでいる高校生からは、そっぽを向かれてしまうだろう。(もう、そっぽを向かれてしまっているかもしれないが。。。)