整備の前に「整理」を。
整備の前に「整理」を。
教育の情報化が推進されて、はや何年(何十年?)が経過したのでしょうか。
ごく普通の先生がやってみたくなる様な実践が可能で、
校務の情報化により先生の余力も生まれ、
それらを実現するために、
だれもが効果的に活用出来る安定したICT環境があるとしたら、、、
推進せずとも自然と広まっていったことでしょう。
タラレバですが。。。
・予算要求しても認められない(それは、認めない側の方が正論だから?)
・費用対効果がわかりにくい(KPIの立て方に問題はないのか?)
・導入しても活用が進まない(現場が求めた環境なのか?)
・活用したい機器が整備されない(誰が決めているの?)
そうこうしているうちに、教育の情報化は国からの交付金頼みになっているとしたら。
本来の目的が薄れ
「補助金を増やす、獲得する、使う」
これらが目的化してしまう様では本末転倒。
ちょっと恐ろしいことだと感じます。
ここ数年、大きな整備が実現したのは、H21年度の「学校ICT環境整備事業補助金(1/2国庫補助)」が措置された年。
この時は、別途「地域活性化・経済危機対策臨時交付金(1/2補助)」も措置され、実質的に自治体は持ち出し予算¥0で校務用PCやデジタルテレビ、校内LANなどの整備が可能でした。
これにより、多くの学校でICT環境の整備が実現しました。
このことは、文部科学省の「学校における教育の情報化の実態等に関する調査」からも読み取ることができます。
H21年度以降、堅調に導入されているのは「電子黒板」と「実物投影機」
この二つは比較的扱いやすく用途がハッキリしているからでしょう。
その他は、やや増か、あまり変わらない状況が続いています。
タブレット型PCが増加している様に見えますが、教育用コンピュータ1台あたりの児童生徒数はほぼ変わっていません。
(H22年度 6.6人/台→H24年度6.5人/台→H26年度 6.4人/台)
ですので、教育用PCの総数が大きく増加しているわけではないでしょう。
PC室のPCがタブレット端末化している学校が増えていると考えられます。
校務支援システムを整備している学校は、公立学校全体のうち89%。
この調査における校務支援システムとは
「校務文書に関する業務、教職員間の情報共有、家庭や地域への情報発信、服務管理上の事務、施設管理等を行うことを目的とし、教職員が一律に利用するシステム」
※学校における教育の情報化の実態等に関する調査より
とされており、
これらの機能を一つでも整備していれば「整備している」という回答になる様です。
「整備している」と回答した89%の学校のうち、
教務系(成績処理、出欠管理、時数等)・保健系(健康診断票、保健室管理等)、指導要録等の学籍関係、学校事務系など統合して機能を有している「統合型」の整備は49%。
公立学校全体から見ると40%となります。(H26年度末時点)
※校務支援システムの整備状況については、H22年度調査から項目が追加され、以降若干形を変えているため、経年の比較が難しい。
整備しようにも予算が通らない、予算が削減される、そうした話はよく耳にします。
国が補助金を出さないから整備が進まない。
そうした声を聞くことも珍しくありません。
今回「総務省による無線LAN整備への補助(2016年度〜2019年度の3カ年で無線LAN機器等の整備に関する100億円の補助予算を確保)」についての報道がありました。
これが実行されたならば、学校内の無線LAN環境の整備は、それなりに進むと期待されている様です。
ちょっと冷静に見てみましょう。
安価な機器で構成された無線LAN環境が整備され、
その結果、思った様な活用ができないという状況を招く恐れがあるかもしれません。
文部科学省がH26年度末(H27年3月)の教育の情報化の実態等が調査対象としている公立学校(小学校・中学校・高等学校・中東教育学校・特別支援学校)の数は
「34,458校」
そのうち、「校内LANを整備する普通教室のうち、無線LANを整備する教室の割合」は「27.2%」
これを、学校数で勘案(大雑把で不正確ですが)すると、
無線LANの整備が必要な学校=補助対象学校
「25,085校」
「100億円」らしいので
1校あたりの補助金額は
「¥398,637-」
1/2補助であれば、実際の整備予算はこの倍の
「¥797,274-」ですね。
予算化され、実施要項が公表されるまでは詳細は不明ですが、
仮に、この規模の予算を、無線LAN未整備の学校へ配分した場合、どのよな整備が可能でしょうか?
1人一台の学習者用端末が整備された上で、
どの普通教室でも授業に支障がないレベルで無線LAN接続が可能な環境
これを実現させるには、様々なことを検討する必要がありそうです。
無線LANのトラブルは、
・そこで利用されている無線LAN機器等の機能や能力に起因するもの
・そこで利用されているシステムの通信経路と無線LANのネットワーク設計上の問題に起因するもの
・設置後の電波状況の変化(飛来電波の増加など)に起因するもの
これらに分けられます。(私の経験上ですが)
整備してからのケア(機器の保守やメンテナンスなど)も必要です。
5年目以降の機器更新も見込まなければなりません。
安易な整備に進まず、
「どの様な学習活動のために、どの様な通信インフラが求められるのか」
フラットな視点で検討し、整理するところから始めて欲しいと思います。
例えば、
「学校の中で、教室内で端末間の画面転送するための通信環境」
「学校内外に関わらず、学習を継続し、学習機会を拡大できるような通信環境」
この二つでは、必要な通信環境は大きく異なります。
特に、後者を求めるならば、無線LANとLTE等の携帯電話回線の利用も検討しなければなりません。
また、既に通信環境を整備した事例を見てみると、
ある学校事例では、無線LAN環境は良好に稼働しています。そこは、整備だけで〇千万円を投じてます。
別の学校事例では、〇千万を投じても通信トラブルが解消できないケースもあります。
ある事例では、無線LAN環境の整備は最小限にとどめ、LTE回線を活用し、通信トラブルゼロの快適な環境下で情報端末を日常的に活用しています。
これからの学校の通信インフラ整備は、ちょっと立ち止まって考えた方がよいのではないでしょうか。
なぜ、これまで整備が進まなかったのか?
これから無線LANの整備を検討する方々は、ぜひ学校現場に行き、授業を見てください。
また、1人一台の学習者用端末が利用出来ると想定すると、
「何台の情報端末が稼働するのか」
「どれほどの通信帯域が必要になるのか」
という環境的な側面と
「どの様な学習活動が展開されるのか」
「今と比べてどの様な活動に変化するのか」
「どの様なチカラを身につけるために情報化を進めていくのか」
という学習活動の目的や活動内容といった側面
そのあたりについても、現場の実態や先行事例などに学びながら整理していただけたらと思います。
補助金があるから整備するのでしょうか?
教育の情報化は、誰のために、何を目的としているのでしょうか?
整備の前に、ぜひ「整理」を。