教育ICTデザイナー  田中康平のブログ

教育ICT環境デザイン、ICT支援員、幼児教育とICT、など

情報活用能力の育成と課題との間に横たわるもの

「情報活用能力の育成と課題との間に横たわるもの」

日本では、社会に出て毎日英語を使い仕事をする人よりも、毎日PCやインターネットや組織内LANや共有サーバを利用する人の方が圧倒的に多いでしょう。

周囲を見渡すと、

・キーボードで満足にタイピングできない。

・インターネット上の情報をコピペはできても「引用(著作権法32条)」する術を知らない。

・ファイルの拡張子を知らない。

SNSの延長の様な文面で、友達ではない相手にメールを送信する。

そういう若者が増えてないでしょうか?(若者に限ったことでもないかもしれませんが)

大学の先生と話をすると、今の「若者あるある」の様に、こうした話が数多く出てきます。

企業でも似た様な話を聞きます。

 

「情報活用能力」という言葉をご存知でしょうか。

文部科学省では

3つの観点、8つの要素に整理されています。

「情報活用の実践力」

・必要な情報の主体的な収集/判断/表現/処理/創造

・受け手の状況などを踏まえた発信/伝達

・課題や目的に応じた情報手段の適切な活用

「情報の科学的な理解」

・自らの情報活用を評価/改善するための理論や方法の理解

・情報手段の特性の理解

「情報社会に参画する態度」

・情報や情報技術の役割や影響の理解

・情報モラルの必要性/情報に対する責任

・望ましい情報社会の創造への参画

 

文部科学省「21世紀を生き抜く児童生徒の情報活用能力育成のために」より

http://jouhouka.mext.go.jp/school/pdf/shidoujirei.pdf

H23年度に文部科学省より公表された「教育の情報化ビジョン」には、

情報活用能力を育むことは、必要な情報を主体的 に収集・判断・処理・編集・創造・表現し、発信・ 伝達できる能力等を育むことです。また、基礎的・ 基本的な知識・技能の確実な定着とともに、知識・ 技能を活用して行う言語活動の基盤となるもので あり、「生きる力」に資するものです。
 と書かれています。
H26年度に初めて「情報活用能力調査」が実施されました
(対象:国公私立の小学校第5学年児童 116校 3,343人、中学校第2学年生徒 104校3,338人)
その結果が公表され、10に分類された課題とそれに対応する授業実践の事例が紹介されています。
課題の1例に「キーボードでの文字入力」というものがあります。
5分間で全角72文字の文を入力するという調査の結果
平均入力文字数別の学校割合は,小学校は 20 字以上 30 字未満が最大で 45.1%,中学校は 40 字以上 50 字未満が最大で 48.1%である。
1分間当たりの文字入力数 小:平均5.9文字 中:平均17.4文字
 別の課題として「複数のデータからの情報収集」についても指摘されています。
ウェブページの階層化されたリンク先をたどって,特定の情報を見つけ出し関連付けることができた小学生は約1割であった。(小学生のみに出題)
 ※文部科学省情報活用能力調査結果 第4章」より
今の高校生や大学生の情報活用能力は、もっと高いものであって欲しいと願います。
さて、
学校にはPC室が整備され、最近では電子黒板やタブレット型端末の整備も進んでいます。なのに、なぜ情報活用能力の育成に課題が見られるのでしょうか。
 
・学校現場にしか存在しない特別なソフトウェアやシステム

・子供を守ろうとするあまり(もしくは、教育活動への理解が低いメーカーによる製品等により)閲覧したいサイトすらブロックする有害サイトフィルタリング

・子供のカスタマイズを排除するユーザ権限の付与や強制的なPC環境復元の仕組

・子供の活動を制御する機能(キーボードの一斉ロックや作業停止など)

・キーボードでのタイピングの機会すら奪う恐れのある、タブレット端末に切り替えられるPC室整備

私が見てきた環境を整理すると、こうした点が上げられます。

情報活用能力を育むための豊かな活動を実現できるとは思えない環境が整備されているとしたらどうでしょうか。

課題の要因は、授業実践やその機会だけにあるとは到底思えません。

学校では、一般社会と隔絶されたかの様な環境でPCを操作し、情報を活用することに制限をかけられてしまっている児童生徒が大勢います。

そういう子供たちは、学校を離れるとスマホで全てを済ませてしまうことも考えられます。

情報活用能力は、社会に出たら当たり前に求められる能力でしょう。

社会でだけではなく、人生そのものを豊かにしてくれるチカラの一つです。

その育成について、観点も要素も整理されています。

なのに、育成する環境の現状はどうなのか?

製品を開発し提案・販売するメーカーや、整備を提案する企業は、これまでの環境を振り返り、そこで育まれたものが何であったかを問い直さなければならないのではないでしょうか。

手段が目的化しがちな教育現場の情報化やICT環境の整備。

今一度、目的は何であるのかを問うていきたいと思います。

その目的が、関連する企業の為だけであってはならないのです。

ICT環境デザインに関する雑感

とある小学校で、電子黒板を活用した音楽の授業を拝見。

先生:教科書の○ページを開いてください

そこから
・電子黒板(液晶パネルタイプ)をタッチして、指導者用デジタル教科書を起動
・指導者用デジタル教科書の該当ページを検索して提示
・歌詞を拡大提示するために、電子黒板の拡大機能を活用しようるするも、電子黒板側のソフトウェアが未起動だったので、改めて起動
・拡大提示が終了。 

ここまで約3分

・電子黒板に提示されたページの曲を再生。液晶パネル内蔵スピーカーから出力。付属のリモコンで音量調整。
・指導者用デジタル教科書に音源が収録されていない曲を再生させるために、CDをCDラジカセに挿入して再生。
・以降は曲目に応じて、電子黒板とCDラジカセの間を行き来する。
なかなかの手数だ。

ちなみに、黒板を挟んで教室奥側に電子黒板、廊下側にCDラジカセというレイアウト。

ある程度、操作に関して事前準備をされていたことがうかがえる動き。

それでも、黒板を挟んで左右に動かねばならない。

それを、子供たちは目で追っている。

コンテンツや電子黒板上の機能重複は、操作の迷いを生みやすい。

教室内の機器レイアウトに難があるのは明白。

電源コンセントの位置にも左右されている。

配線類も、床を這ったり機器の周囲にぶら下がっていたり。

LANも電気も一緒に転がっている。

管理上も安全上も適切な施工とは言い難い。

PC教室の感覚で施工していると陥ってしまいがちな事例。
(見えないところにケーブル隠しとけ。的な)

常に子供たちが活動する、先生も日常的に活用する「普通教室」という場であることをどこまで考えたのか。

調達時に、設置施工に関しても仕様内容を明確にし、使いやすいレイアウトや事故のない安全な環境を求めていかなければと再確認した。

また、今日の様な授業の場合、例えばiPadに音源が保存されており、教科書の写真を撮影した上で、Keynoteで音源と写真を挿入したスライドを作成しておき、電子黒板にiPadを接続して利用できたならば、もっとスムーズに展開したのではないだろうか。

著作権法上、第35条第1項の条件を満たせば問題ないはずだ。

音源にしてもiTunesで購入しておけば良いだろう。

実際にこれらを実現しようとすると、購入手続きや前例がないことへの説明など細々整理しながら乗り越えるべき事は多い。

しかし、ユーザーにとってそれが望ましい環境であれば、求めていくのが自然なことであり、そうではない整備や供給側の論理が先に立っては、同じ課題の繰り返しになるだろう。

これから先の教育ICT環境デザイン。

その答えは、現場に落ちている。

気づく「目」と、これまでの常識を疑いながら最良を求める姿勢を大切にしたい。

学校現場の理解から、教育とICTを考える。

「学校現場の理解から、教育とICTを考える。」

 最近、タブレットPCなどの活用や、学校へのICT導入などの研修の依頼をが増えてきました。

 研修会ではないところでも、ICTの活用について相談をいただいたり、個別でメールを送っていただくこともあります。

 そんな中で考えていることをまとめてみました。 

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 怪我、体調不良、忘れもの、人間関係のトラブルなど、目の前の子供達の変化への対応。

 様々な調査への回答、教材費集計などの学級事務、分掌担当業務など校務に関する対応。

 地域の方々との関わり、各種行事、部活動などへの対応。

 様々な対応に追われ、授業準備や教材研究、子供達との対話の時間が思う様に取れない現状。

 そこへ流れ込む「ICTを活用しましょう」という風潮。

 学校現場には、全てが足し算で降ろされてしまいます。

 当然、消化できなくなってしまう。

 この辺りの現状を把握している方は、どれほど存在するのでしょう。

「ICTが導入されたら、業務が効率化され、教材研究や子供達と向き合う時間が増えます」

 そう言われ導入される、

「一般家庭や企業には存在しない、電子黒板やデジタル教科書(教材)、授業支援システムなどの学校専用」の機器やシステム。

 入札によってメーカーが変わる。新機能がどんどん増える。

 隣町へ異動すると、違う環境。

 見慣れないツールの操作を覚えるところから始めなければならない。

 家には練習する環境はない。

 さらに時間が、余力が奪われていく。

 こういう現場は、決して珍しくありません。

 こんな中で、教育の情報化やICTを利活用を推進し

 「使いましょう」「こんな機能がありますよ」

 と言ったところで定着するのでしょうか。

 教育の情報化や、ICTを利活用した教育等その側面だけをみると、タブレット端末や電子黒板、デジタル教科書(教材)など、新しいツールの普及とその活用について積極的な展開が図られているように思えてしまいます。

 しかし、それは学校の教育活動や子供たちの学習活動から見ると、

 「ある一部分」の話です。

 教師が常に取り組みたいことは

 「より良い授業の探求」のはず。

 学習者が望むのが

 「わかりやすい授業」のはず。

 「ICT」は、その手段の一つであるはず、です。

 本質的な授業改善の考え方は昔から変わることなく、課題設定や教材開発、児童の実態把握などが大切です。

 ICTを取り入れても、指導法や学習内容、子供達の活動がデジタルになるわけでありません。

 「教育は人の営み」です。

 ICTの導入が授業改善に直結しないことは、肌感覚でわかっていること。

 かえって改悪になる場合もあり得ます。

 「授業を問い直すキッカケ」としてICTの導入や活用がある。

 今の現状からは、そう捉えた方がよい気がしています。

 フューチャースクール等の先進的なICT環境を上手に取り入れた学校。

 新しい手法について慎重に研究するための教師間の情報共有や意見交換など、かつての学校に存在したであろう

「同僚性」

こういった教師同士の関わりを今一度見つめ直すことが、

授業改善や学力向上、情報活用能力の育成など繋がったと言われていました。

使える機能、使えるツールから無理せず試してみる。

教師自身が楽しみながら試行錯誤することを許容しあう。

今日こんな活用したよ。

これは便利だったよ。

ちょっと失敗した〜。

これは使おう。

これはやめておこう。

同僚同士でそんな言葉が交わされる中から、良いものが残っていく。

その結果、過剰な機器やシステムは減り、本当に役に立つモノが開発され、提供されることを期待しています。

13年間を振り返る。

 「13年間を振り返る」

今日は息子の中学校入学式だった。
通い始める中学校は、創立13年目の若い学校。
前職時代に新規開校案件として担当し、とてもお世話になった学校だ。
彼が生まれる時、開校間近のその学校で、多くの什器や教材備品、ICT機器などを納品していたことを思い出す。
あれから13年。
これまでの出来事を振り返りながら、入学式に参加した。

2002年(平成14年)
日韓共催のサッカーW杯が開催
J-Phoneの「ムービー写メール」が登場
携帯電話で動画を送れるようになった年。

2003年(平成15年)
六本木ヒルズがオープン
・初めて、鳥インフルエンザの発症が確認された
・第3世代のiPodが流行
・初代プリウス発売

2004年(平成16年)
新潟県中越地震
ニンテンドーDSプレイステーションポータブル発売
iPod mini登場

2005年(平成17年)
JR福知山線脱線事故
・日本の人口が、1899年の統計開始以来初の自然減
旧ライブドアによるフジテレビ買収問題等
iTunes Music Store 日本でのサービス開始
・ラジオ局等によるPodcastがスタート
iPod nanoフラッシュメモリ搭載デバイス)登場

2006年(平成18年)
・日本の65歳人口率が世界最高、15際以下人口率が世界最低に
・大人のDSトレーニングがブームに
ワンセグ放送開始
Windows vistaリリース

2007年(平成19年)
・全国学力学習状況調査を実施
iPod touch登場
iPhone登場

2008年(平成20年)
リーマンショック
iPhone 3G 国内販売開始

2009年(平成21年)
民主党政権交代
事業仕分け
・スクールニューディール
・3D映画アバター公開
Windows7 リリース

2010年(平成22年)
iPad登場
・地上アナログ放送終了
・フューチャースクール事業
総務省ICT絆プロジェクト

2011年(平成23年)
東日本大震災
ニンテンドー3DS登場
サッカー女子日本代表、W杯を制覇
・地上アナログ放送終了

2012年(平成24年)
東京スカイツリー開業
京都大学の中山伸弥教授がノーベル生物学・医学賞を受賞(iPS細胞)
Windows8 リリース

 

この後は最近のことなので割愛する。

ざっと羅列してみると、忘れていることも多い。

この間、何が変わったのか、何が変わっていないのか。

これから先、何が変わっていくのか。

はっきり感じるのは、変化のスピードが速くなっていること。

それと、大きな天災など、いつ何が起こるかわからないということ。

明日、元気でいる保証など、どこにも、誰にもない。ということ。

 

今日、中学に入学した息子が社会に出て活躍するまで、あと10年くらい。

社会の変化に翻弄されず、自分の足で立って、走り回って欲しい。

そのために必要な力を身につけるには、

学校で学ぶ内容も大切だが、親である我々が与えることができる部分もあるだろう。

最も身近な大人である私(親)が、社会の変化に対応しようと学び、チャレンジする姿を見せることが、何より大切なことではないかと考えている。

そして、何が起こるかわからない世の中で、毎日燃焼することの素晴らしさを感じて欲しいと思う。

新しい学校、新しい環境に飛び込む息子に以上に、チャレンジして行きたい。

そのことが、反抗期を迎えつつある息子への最大限のメッセージになれば嬉しい。

教師がICTを活用するということ(後編)

「教師がICTを活用するということ」(後編)

 

後編では、教師がICTを活用していく上で参考になる事例から考えてみます。

 

「東京都墨田区

平成26年度に小中学校5校のモデル校で、普段の授業で活用するためのICT環境を整備。

概要は

・教師一人一台のiPad

・各教室に、AppleTV、AirMac Express、黒板上部にスライド式のプロジェクターを常設。(一部の教室では壁面の設置スペース等の関係で自立スタンド型が整備されている)

・実物投影機(小学校)、既存のWindowsノートPC

実際の授業の様子は

教育家庭新聞2月号の特集記事

「教員1人1台端末で授業改善<学校ICT化推進事業 東京都墨田区>」 

こちらに詳しく書かれています。

 

大切な視点として

・誰でも、いつでも、簡単に活用できる環境

・教師の創意工夫が発揮しやすい環境

・教師のタブレット端末活用からスタート

・シンプルな構成

・急激に授業スタイルを変えない

があげられます。

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iPadでも、実物投影機でも、WindowsノートPCでも、自由に選択できます。

もちろん、使わないという選択肢もある。

シンプルな構成である点も重要です。

iPadを活用すると言っても、事前に撮影していた教材の写真を黒板に投影し、チョークで書き込むだけ。

授業は、これまで通りのスタイルで進行します。

板書の時間が省かれた分、教える内容は増えています。

学習者との対話も増えている。

操作研修など必要がないレベルの構成と活用法。

シンプルであるがゆえに、教師の創意工夫の余白が大きく残されています。

その結果、短期間のうちに、多くの教師に受け入れられています。

 

「教材コンテンツが不足しているから、活用が進まない」

「教師のICT活用指導力を向上させるために、研修を充実していきたい」

「教師と学習者がインタラクティブに情報をやり取りできるICT環境を整備したい」

 

という声を聞くこともあります。

相談を受けることも多いです。

その時、

「もう少し現場や授業の実態に合わせた環境整備について検討するとどうだろうか」

と伝えています。

 

例えば、

全ての漫才師が同じネタをやって、その全てが面白いのでしょうか?

それぞれの漫才師が、自分たちの個性、間、センスに合わせたオリジナルのネタを創り提供するからこそ、面白いのではないでしょうか?

また、その時の客席の様子に柔軟に合わせながら進める、アドリブを効かせていくことも重要でないでしょうか。

 

授業も同じことがいえるのではないか?と考えています。

授業で活用する教材コンテンツ。

自分の授業をより良くしようとするほど、その教師のオリジナルなコンテンツになっていくと思います。

ICT活用法も、活用のタイミングも、教師の間、センス、その時の子供達の様子に合わせたアドリブなど、実に多様です。

そういった

「教師の主体性」

「自由度」

を発揮しやすい環境が大切ではないかと考えます。

操作を覚えることから始めなければならない機器やシステムでは、多忙な学校現場で活用が浸透するまで、どれだけの時間が必要でしょうか。

インタラクティブなICT環境が授業を進めてくれるわけではありません。

目の前の子供達と教師の対話、人間的な関係性の中で授業は進んでいきます。

不意の方向転換に臨機応変に対応する。

トラブルが極力でない。

操作の手数が少ない。

教師自身が、子供達に顔を向けて授業ができる。(電子黒板やタブレット端末を見続けない)

普段の授業の様子をしっかり理解していくと、

「必要なもの、不要なもの」

が見えてくるのではないでしょうか。

 

先日、長崎県の私立創成館高校で、授業でのICT活用についてお話しさせていただきました。

その様子は、「創成館高校 校長ブログ」に書かれています。

シンプルな機器、端末、アプリを活用した、だでれも簡単にできるICT活用。

ICT活用が目的化しない。授業が良くなることが目的。

教師が、私物のスマホタブレット端末を、気軽に楽しみながら活用する。

この辺りを中心に伝え、

後半は実際にスマホタブレット端末を活用した体験会となりました。

「検索した言葉がその場で大きく表示される!」

「写真の拡大も、ピンチアウトで大丈夫!」

「後ろの席でも見えるぞ!」

「今度、使ってみよう!」

「部活でも使おう!」

そういう言葉が飛び交いながら、活用のアイデアが湧いてくるのが伝わってきました。

「自分が普段使う端末=手に馴染んだ道具」

であることも、活用のしやすさ、アイデアの具体化につながると思います。

 

「教師がICTを活用するということ=よりよい授業の創造」

そこには、

「教師一人一人の個性や創造性を発揮しやすい」

「シンプルで自由な活用が可能なICT環境」

「活用する人を尊重する視点」

が求められるている。

そう思います。

教師がICTを活用するということ(前編)

「教師がICTを活用するということ」(前編)

 

「教育の情報化」「教育におけるICT活用」

について考える中で、幾つかのキーワードが浮かんできます。

「電子黒板」

「デジタル教科書(指導者用)」

タブレット端末」

無線LAN

「協働的な学習」

これらについて、日頃気になっていることを書いてみます。

 

「電子黒板(液晶等のパネル型)」

・70インチでも小さく感じる。(16:9の表示やPCの高解像度化による。)

・操作ボタンが視界に入る。学習者から見ると不要な情報である。

・学習者の視点を「従来の黒板」⇄「電子黒板」と行き来させている。

・高さ不足の場合、後方の学習者は、前方の学習者の頭部に遮られ、見えていない。

「電子黒板(プロジェクタ型 スタンド式)」

・大きく投影できる。しかし教室内の設置場所に困る。

・長年使っているうちに、プロジェクタの自重により位置がズレてくる。

 結果、投影面に歪みが生じ、補正メンテナンスが必要になる場合がある。

・操作ボタン、高さ不足については、パネル型と同様。

どちらにも言えることとして、

・学習者は「大きく光る画面」に対して無意識に反応する場合がある。
 「見せる必要がない場合の対処」「見せないという見せ方」
 も考えなければならない。

 

「デジタル教科書(指導者用)」

ツールが豊富。利用者に「慣れや習熟」を求める。

・表示している教科書の内容以外の情報が多い。

 結果、教科書の内容が小さく投影されることがある。

・教員の操作と、指導するための振る舞いは違う。
 学習者の思考を惑わす場合がある。

・整備率と学力向上との相関性は、現時点では見られないようだ。
 (今後、調査を進めると、明らかになるかもしれない)
 ※参考資料「デジタル教科書の整備状況と学力調査都道府県別結果の考察図」

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タブレット端末」

・OS、キーボードの有無等の違いにより様々。一括りには語れない。

・起動又は認証処理やソフトの更新等に時間を要すと、学習活動の時間が少なくなる。

・オフラインでの活用が可能な設定、OS、が望ましい。

・とにかく、写真や動画を撮る。その保存分類が一番の課題。

・落とす。壊れる。こういうことは「必ず起きる事」として考えておく。

 

無線LAN

・教室に41台の端末が存在し、かつ複数の教室で稼働している場合、全ての端末が無線LAN接続を維持し続けることは極めて難しい。

・「無線LANが接続できない→無線LANアクセスポイントが悪い」ではない。

 原因は、使用している端末やソフト、システム側にある場合も多い。

 これを解明するのは容易ではない。

無線LANでのやり取りが前提のシステムを活用した授業では、やり取りの手間や通信障害等で授業進行が遅くなるケースがある。

・そもそも、通信し続けなければならない活用方法やソフト、システムが必要か?
 ここを見直す必要がある。

・有線LAN、HDMI等、「有線ケーブルの利用も可能な環境が必要」となる場合がある。

 

「協働的な学習」

・従来から行われていた「ペア学習」「グループ学習」との違いは?

タブレット端末を活用し、個々の意見を電子黒板等に集約して議論する。

 個々の意見を小さなホワイトボード等に書き、黒板に貼り並べて議論する。

 学習効果にどのような違いがあるだろうか?

・協働的な学習を促進するのは、「ICT環境」「教師による動機付け、働きかけ」

 どちらが必要か?片方だけでも良いか?その両方が必要か?

 

私が学校現場に行き、ICTを活用した授業をサポートする、観る、先生方と話す中で感じてきたことです。

この他にも様々な事が指摘されるかもしれません。

 

「なるほど、こういう活用は、この活動では有効だ」

と感じることあります。

一方で

「この活動では、ICT環境が邪魔をしている」

「オフラインの方が早い」

「思考のスピードの方が勝っている」

と感じることもあります。

 

どちらかというと、後者の方が多い。

 

現場では、先生方からこう聞かれます

「効果的な活用法を教えて欲しい」

「ここぞ!というときに使いたい。そういう事例を知らないか?」

この様な質問の裏側には、

 

「思うような(言われるような)活用ができない」

「学習効果に結びつく実感がない」

「自分たち(利用者)の手に馴染んでいない」

という課題が考えられます。

 

この課題を解決するためには、

学習者用のタブレット端末や

授業全体に影響を与えるような大掛かりなICT環境ではなく、

「教師がICTを活用するということ」

に絞って整理し、

「必要なコト、必要なモノ」

を考えていくべきだろうと考えています。

 

その際に参考となる実践が始まっています。

ここから先は、実際の事例をもとに考察していきます。

(後編へつづく)

 

学習者用端末の整備で考えなければならない「二つ」の視点

学習者用端末の整備で考えなければならない「二つ」の視点

昨年後半から年明けに様々な学校へ行き、また関係者と情報交換する中で

教育分野のICT利活用の潮流の変化を感じています。

潮流をどう捉えるかは、それぞれの立ち位置によって違いがあるでしょう。

私が感じるのは、「公立校」という岸辺から見ると上げ潮でもなく、下げ潮でもなく、滞留しつつあるかなと。

その先の沖合を、「私立校」という違う潮が結構な速さで流れ始めているように見えます。

沖合の潮流が本流になるころ、ようやく引かれ潮が岸辺(公立校)に到達するのかもしれません。

 

ここ数年、先進的と喧伝されてきた1to1の公立校の事例を見ると、

「陳腐化を始めているのでは?」と感じることがあります。

ネットワーク環境や端末スペックなどもそうですが、

学習者用端末の活用も、提供者や環境の枠に合わせ、利用者に無理を強いながら推し進めているように見えることがあります。

反面、私立校のそれは、1to1の在り方を利用者に委ねることで、一見チャレンジングな様で、実は合理的な活用に思えます。

公立校が停滞しているように思える原因はなぜか?

と考えた時に

「二つ」の視点にたどり着きました。

 

一つは、「企画から稼働が始まるまでの時間の長さ」です。

大まかに、その長さを示してみると、

1年目:事業立案し予算要求(モデル校)

2年目:当初予算に計上。1年前の計画に沿った調達/工事等の環境整備(モデル校)

3年目:モデル校に準じた内容での全校整備

4年目:全校での本稼働

公立校で1to1の学習者用端末整備を行った事例では、全校稼動まで概ねこの様な時間をかけて整備していました。

計画から4年も経過しています。

デバイスやシステムの進化を考えると、長過ぎます。

そういった事に対して柔軟に対応しながら適応していけば良いのですが、中々そういかないのが公立校の難しいところです。

方や私立校は、トップの判断の元、短期間で整備を終えることが可能です。

クラウドサービスの活用など、時代に合わせた柔軟さも発揮しやすい。

この違いは、その後の活用にも大きく影響してきます。

今後は、私立校の好事例に、公立校が倣うケースが出てくると考えます。

 

もう一つは「整備の目的」です。

例えば、先進性を求め国内でもいち早く推し進めた整備。

だとしても、企画から稼働までの時間の長さを考えると、先進性を確保できているのか?

冷静に見なければなりません。

整備が目的ではないはずです。

学習者用端末を整備する本来の目的は、

「学習者にとって有益なものにする」

この点にあるはずです。

「学習者にとって有益」について関係者間で考える際に、

育みたいチカラ、そのための授業や学習の在り方、ICTも含めた環境、ツール等の活用などを考え、関連付け、俯瞰して、

「自らの言葉として捉えること」

が大切なのではないでしょうか。

この点を整理するためにワークシートなどを用いて、関係者間で話し合ってみるのも良いかもしれません。

事前に、様々な事例や今後の見通しなどのインプットがあると、なお良いでしょう。

先日、ある研究会で活用したワークシートをベースにしたものがこちらです。

 

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考え付く多くのことを出し合い、関連付け、無駄なものは削っていきます。

おそらく1時間や2時間では終わらないでしょう。

何日間か、何週間か、何ヶ月か

ある程度の時間をかけてじっくりと整理し

「自らの言葉」を関係者間で共有できたら

どんな環境にもブレない軸が生まれると考えています。

 

この「二つ」の視点

どう思われますか?

学習者用端末も含めた、より良いICT環境整備が進み、

学習者の活動が豊かなものになっていくことを願っています。